用語集
相場最終更新 2026-09-09

EU豚生体相場(DG AGRI 公表)

EU Pig Prices (DG AGRI, SEUROP)

EU豚生体相場は、EU 各国のパッカーが農場から買い取った豚の価格を、欧州委員会の農業総局(DG AGRI)が週次で集計・公表したものである。価格はと畜後の枝肉重量あたり(€/100kg)で表され、EU共通の格付け規格(SEUROP)の等級別に報告される。

規則上の名称は「豚枝肉の市場価格(market prices of pig carcasses)」だが、枝肉が流通する段階の価格ではなく、パッカーが農場に対して支払う生体豚の取引価格であり、米国のUSDA豚生体相場と同じ種類の指標である。

何の価格か — 枝肉重量ベースで示した「生体豚の取引価格」

EU の公式価格は、枝肉重量あたり(€/100kg)で表示されるが、枝肉の価格ではなく生体豚の価格である。生体豚の代金を枝肉の重さで割って単価にしたもので、枝肉そのものの売買価格ではない。

パッカーは生産者から生きた豚を買い取り、と畜後にフックに吊るして量った枝肉重量と等級を基に代金を決める。そして EU 当局が報告対象と記載しているのは、この売買の精算書類に書かれたと畜場渡しの価格。つまり生体豚の売買価格であって枝肉自体のそれではないことがわかる。

“The market price reported shall be the price at the slaughterhouse gate expressing the value of the carcass, net of value added tax, according to the documents issued to the supplier by: (a) the slaughterhouse; or (b) the natural or legal person who sent the animal for slaughter to the slaughterhouse.”— 委任規則 2017/1182 第14条(1)

EU公式価格の定義(委任規則 2017/1182 第14条)
要素内容
誰が誰にパッカーが、豚の供給者(生産者)に発行する精算書類上の価格
どこでと畜場門前(slaughterhouse gate)、付加価値税抜き
単位€/100kg 枝肉重量
重量フックに吊るして量った冷と体重量(cold carcass weight=温と体重量 −2%)
整形標準整形(舌・剛毛・蹄・生殖器・腹脂(リーフファット)・腎臓・横隔膜を除く)

枝肉を買う実需家との取引ではないため、日本の食肉市場で枝肉がセリにかけられる価格や、米国のカットアウト価格(枝肉を部位別に売った場合の卸売評価額)とは取引の段階が異なる。

SEUROP — 赤身率で6等級に格付けする

EU では、と畜した豚の枝肉を共通の規格で格付けし、価格もその等級別に報告する。等級は、枝肉重量に占める赤身肉の割合(推定赤身率)で6段階に分かれる。上から S・E・U・R・O・P で、頭文字を並べて SEUROP と呼ぶ。

赤身率は認可機器による推定値で、解体して量るのは認可試験のときだけである。等級は格付けと価格報告のための物差しで、枝肉の商業価値を赤身率で決める規則はない。実際の精算では、重量帯や脂肪厚などのプレミアム・ディスカウントを加える方式が主流。

SEUROP の等級と赤身率、週次価格報告の対象
等級赤身率(枝肉重量に対する割合)週次価格報告の対象(枝肉重量)
S60% 以上60kg 以上 120kg 未満
E55% 以上 60% 未満60kg 以上 120kg 未満
U50% 以上 55% 未満対象外
R45% 以上 50% 未満120kg 以上 180kg 未満
O40% 以上 45% 未満対象外
P40% 未満対象外

※ 枝肉の定義は、EU の共通市場組織規則(1308/2013)の附属書IVに記載。「放血・内臓摘出した豚の体、丸ごとまたは正中線で二分したもの」。

※ 赤身率の推定には、脂肪厚と筋肉厚をプローブで測る針式や、超音波で枝肉を走査する全自動式など、欧州委員会が認可した機器を使う。計量は放血から45分以内に行い、価格報告に使う重量は、と畜直後に量る温と体重量(hot carcass weight)から2%を差し引いた冷と体重量(cold carcass weight)。年平均で週500頭未満のと畜場は加盟国の判断で格付け義務の対象外にでき、繁殖用の豚は規格の対象外。

週次価格の集計方法と公表タイミング

価格を報告するのは各加盟国が指定したパッカーで、生産者への精算書類に記載した実際の支払価格を、月曜から日曜までの1週間分まとめて各国当局に報告する。どの規模のパッカーに報告を義務づけるかは EU ではなく各国が決めており、ドイツでは食肉法に基づき週平均500頭超をと畜する企業に法定報告義務がある。各国当局は全国価格にまとめて翌週水曜正午までに欧州委員会へ通知し、委員会が EU 平均を算出する。

価格の記録対象は、等級と重量帯で絞られている(上の等級表の右列)。枝肉60kg以上120kg未満は S と E、120kg以上180kg未満は R で、U・O・P は週次価格報告の対象に入らない。

各国は月曜から日曜までの1週間の価格を記録し、翌週の水曜正午(ブリュッセル時間)までに欧州委員会へ通知する。DG AGRI はこれを週次で公表するため、前週の価格は水曜から木曜に出る。

EU平均価格=加盟国の価格をと畜数量で加重して算出

EU全体の価格は、DG AGRI が等級ごとに、加盟国の全国価格をその等級のと畜数量シェアで加重平均して算出する。週報では S と E の加重平均を “Weighted Average (Class S & E)” として掲載しており(S と E の重みは2026年9月時点で約66%対34%)、ダッシュボードや業界資料で EU の参照価格として最も引用される(加重の係数は直近3年間の EU 生産量に占める各国のシェアが使われる)。

EU 生体豚価格(枝肉重量ベース、週次)— EU集計の S・E・R 等級
EU集計の S・E・R 等級の週次価格(€/100kg)。海外ダッシュボード 生体価格タブより。

※ ユーロ非導入国(デンマーク・ポーランド等)の価格は自国通貨で報告され、DG AGRI がユーロに換算する。これらの国のユーロ建て系列は為替でも動く。

※ 同じ週報には子豚(生体約25kg・肥育用)の価格も €/頭 で載る。

イタリアの枝肉は重く、EU の R 等級の大半を占める

R 等級の価格が記録されるのは枝肉120〜180kg の重量級だけで、報告しているのはドイツ・スペイン・イタリア・ポーランドの4か国。このうちイタリアは S・E を報告せず、R だけを報告している。

イタリアの豚は生ハム原料の重量級が主体で、パルマハムの生産規程は生体160kg 前後(±10%)・枝肉110〜180kg・U・R・O 等級の豚を原料に指定している。平均枝肉重量は主要国より3割以上重く、価格水準も高い。EU 平均の R がこの水準に引き寄せられるため、S・E より高く出る。ドイツやポーランドだけを見れば R は E より安く、赤身率の低い等級として順当な位置にある。

EU 加盟国 平均枝肉重量(月次)— 主要7か国計とイタリア
EU 加盟国の平均枝肉重量(月次)。主要7か国計とイタリアのみ表示。海外ダッシュボード 飼養・と畜タブより。

あくまで市場統計であり、豚肉に公的買入れはない

DG AGRI が公表する EU 平均価格は市場の統計で、EU がこの水準で買い支えるものではない。穀物や牛肉にある公的買入れの制度は、豚肉には無い。

相場下落時の EU 側の対応としては、豚肉を保管する事業者への民間在庫補助(一定期間の保管料への補助)が存在するが、価格が基準値(E 等級で約€151/100kg)を下回れば自動で発動する仕組みではなく、欧州委員会が EU 平均価格・生産コスト・この基準値を踏まえて都度決める。週次の価格報告は、この判断の材料にもなる。

各国個別のベンチマーク指標

欧州各国の豚相場関連のニュースで扱われるのは DG AGRI の統計だけではなく、国ごとに一定程度ベンチマークとなる指標が存在する。決め方はさまざまで、法的な位置づけもない。

例えばドイツでは生産者団体の連合(VEZG)が毎週水曜に翌週の標準的な豚1kg(枝肉重量)の単価を発表し、スペインでは Mercolleida(リェイダの農畜産取引所)で生産者側とパッカー側の主要企業が毎週木曜に生体1kg の価格を合議で決める。デンマークでは最大手パッカーの Danish Crown(生産者が所有する協同組合)が翌週に組合員から買い取る豚の単価を毎週発表し、これが指標として扱われている。

各国の週次価格
国名称何の数字か決める主体重量基準
ドイツVEZG翌週の標準豚の単価(取引の基準指標)生産者団体の全国連合枝肉
スペインMercolleida合議で決める参考価格(取引の基準指標)取引所の価格委員会(生産側・パッカー側)生体
デンマークDanish Crown最大手が組合員から買い取る翌週の単価パッカー1社(生産者所有の協同組合)枝肉
フランスMarché du Porc Français生体のセリの加重平均価格(場外取引の基準)生産者側のセリ市場枝肉で表示
イタリアCUN委員会が決める指標価格農業省が関与する委員会生体

いずれも公的な統計ではなく、重量基準も統一されていない。DG AGRI の公式価格はこれらを集計したものではなく、パッカーが実際に支払った精算価格を各国当局が集め、EU 共通の等級と単位に揃えた事後の統計で、各国の週次価格より遅れて出る。週の値動きを追うなら各国の価格、国どうしの水準を同じ物差しで比べるなら公式価格、という使い分けになる。

米国の生体相場との比較 — 算出基準が異なり直接比較は不可

EU の公式価格と米国のUSDA豚生体相場は、どちらもパッカーが生産者に支払う生体豚の価格を枝肉重量建てで表した、同種の指標であるが、単位と重量の定義が異なるため、通貨と単位を換算しても直接比較はできない。

EU公式価格と米国生体相場の定義
項目EU(DG AGRI)米国(USDA LMR)
単位€/100kgUSD/cwt(100ポンド = 45.36kg)
重量冷と体重量(温と体重量 −2%)温と体重量
整形頭付き・皮付き、腹脂・腎臓・横隔膜を除く(法定)皮付き・頭なし(業界慣行)
等級SEUROP(推定赤身率)赤身率・重量のプレミアム・ディスカウント
公表週次毎営業日

重量は、EU が温と体重量から冷却による目減り分として2%を引いた冷と体重量を分母にするのに対し、米国は温と体重量を使う。分母が2%小さい分、同じ支払額でも EU の単価は約2%高く出る。

整形も異なり、EU は腹脂(リーフファット)・腎臓・横隔膜を外した重量で、この3点の重さが枝肉74.6kg以上で1.6kg、枝肉の約2%にあたる(冷と体重量の換算で引く2%とは別の調整)。米国の法定報告制度には整形の規定がないが、一般的に枝肉は皮付き・頭なしの状態で、頭を付けたまま量る EU とはこの点でも重量の基準が異なる。

※ GOV.UK “Reporting deadweight pig prices: guidance for abattoirs”(英国政府のパッカー向け価格報告規定)による

生体豚価格の横断比較 — 米国・EU(USD/kg 換算)
米国(と畜ベース・正味価格)と EU(S と E の加重平均)を USD/kg に換算して重ねたもの。上の定義差は補正していない。メキシコの系列は枝肉の卸売価格で、本記事の対象とは取引の段階が異なる。海外ダッシュボード 生体価格タブより。

補足 — 1985年の5等級からの沿革

現行の規格の原型は、1985年に発効した理事会規則(3220/84)である。当初の等級は E・U・R・O・P の5段階で、S は加盟国が任意で設けられる追加等級だった。当時の標準整形は、舌・剛毛・蹄・生殖器を除く一方で、腹脂(リーフファット)・腎臓・横隔膜は付けたまま計量するもので、現行と逆になる。現行の形になったのは1994年7月で、腹脂・腎臓・横隔膜を外す整形に改められた。S 等級は長く加盟国の任意で、2014年適用の現行規則で標準の等級になった。

本記事で使ったデータは、以下のダッシュボードで確認できます。

関連用語
参考・出典