用語集
衛生最終更新 2026-09-05

豚熱(CSF)

Classical Swine Fever

豚とイノシシの感染症で、致死率は高いが人には感染しない。弱毒生ワクチンが確立しているため、日本では2019年10月からの予防的接種で発生を年数件に抑えられている。

ただし接種を続ける限り WOAH(世界動物保健機関)の清浄国には戻れず、2020年に清浄国ステータスを失ってからは、2050年の復帰を目標にワクチンを打ちながら清浄化を進めている。なお、名前の似たアフリカ豚熱(ASF)とは、全く別のウイルスである。

豚熱(CSF)とは

豚熱ウイルス(CSFV)による豚・イノシシの伝染病。発熱、食欲や元気の消失、下痢などを示し、急性型では1〜2週間で死亡するが、人には感染しない。日本では家畜伝染病予防法上、感染またはその疑いのある豚を確認した場合は届出と殺処分が義務づけられている。

弱毒生ワクチンが世界各地で実用化されている。日本でも1969年に国産の生ワクチンが実用化されて発生が激減し、1992年を最後に発生が途絶えた。ワクチンがあることが、名前の似たアフリカ豚熱(ASF)との最大の違いになる。

※ 法律上の名称は、2020年2月の家畜伝染病予防法改正で「豚コレラ」から「豚熱」に変わった。人のコレラとは無関係で、英語名が先に Hog cholera から Classical swine fever へ統一されていたことに合わせた改称。

アフリカ豚熱(ASF)とどう違うのか

名前が似ているが、まったく別のウイルスによる別の病気。CSF はワクチンで予防できるが、ASF はワクチンがなく、発生すれば殺処分と移動制限で封じ込めるしかない。日本も CSF では2019年から飼養豚に予防的接種を続けている。

※ ウイルスの違いと、その違いがワクチンの有無につながる理由はASF の記事に整理してある。

現在どこで発生しているか

発生が続いているのは中国・ベトナム・フィリピンと日本で、東アジアに集中している。一方、WOAH(世界動物保健機関)が2026年5月時点で CSF 清浄と認定する国は40か国で、米国・カナダ・メキシコ・チリのほか、ドイツ・スペイン・ポーランド・イタリアなど欧州の主要生産国が含まれ、日本の主要な豚肉輸入先はいずれも清浄である。ブラジルは国全体ではなく、養豚産業の95%超を占める15州と連邦直轄区が清浄ゾーンとして認定されている。

CSFの世界の発生状況(国別ステータスの地図)
CSFの世界の発生状況 — 国別ステータス。清浄 / 野生のみ / 野生+飼養の3区分(海外ダッシュボード 疾病タブより)

分布は ASF と異なる。欧州ではドイツ・スペイン・ポーランド・イタリアで ASF が発生しているが CSF は清浄で、日本は ASF が未発生のまま CSF が発生している。

清浄国に戻るためのハードル

WOAH の規約は、清浄国の要件の一つに「過去12か月間、ワクチン接種を行っていないこと」を置く。接種した豚と感染した豚を血清で見分ける手法があればこの限りではないが、日本で使われているのは従来型の弱毒生ワクチンで、この手法は実用化されていないため、接種を始めた時点で要件を外れ、続ける限り戻れない。

逆に、ワクチンを使わず全頭殺処分で押し切れば、最後の感染農場の消毒から3か月で清浄国ステータスを回復できる。オランダは1997〜98年の大流行をワクチンなしで1年3か月ほどで終息させたが、429農場が感染し、予防的な処分を含めて1,000万頭超を処分した。

日本は野生イノシシに広がって殺処分だけでは抑えられない状況でワクチンを選び、頭数を守った代わりに、清浄国への復帰は2050年を目標にしている。

※ 血清型と構造の違いはASF の記事「ウイルス構造の違い」を参照。

日本の豚熱 — 2018年からの経過

2018年9月の再発生から8年で、発生は25都県・105事例に広がった。その間に予防的接種の再開(2019年)、清浄国ステータスの喪失(2020年)、選択的殺処分の導入(2026年)と、防疫の枠組みが段階的に変わっている。

日本の豚熱 — 2018年以降の主な経過
時期出来事
2018年9月岐阜県の養豚場で1992年以来26年ぶりに発生。同月、野生イノシシでも確認
2019年45事例と発生のピーク
2019年10月飼養豚への予防的ワクチン接種を開始
2020年9月WOAH の清浄国ステータスを喪失
2023年9月接種区域が九州に及び、北海道を除く46都府県に
2026年4月宮崎県で初発生。発生は25都県に
2026年5月接種区域で選択的殺処分を導入

発生は25都県・105事例、野生イノシシは43都府県に

2026年7月までの飼養豚の発生は105事例、殺処分は約44.9万頭。2019年の45事例を頂点に、その後は年4〜15事例で推移している。野生イノシシは累計1万頭超が陽性で、未確認は北海道・千葉・大分・沖縄だけになった。

2020年に清浄国ステータスを失い、輸出は北海道産だけ

WOAH の清浄国ステータスは2018年9月の発生通報で停止され、予防的接種の開始により2020年9月に失われた。豚肉の輸出は発生と同時に止まり、香港・シンガポールなどは「発生地域とワクチン接種地域以外の産地」を条件に受入れを再開したが、この条件を満たすのは北海道のみ。

米国は2021年の最終規則で日本を清浄地域から外した。停止前の輸出は年2,000トン台で、国内生産の0.1〜0.3%程度にあたる。

2026年5月、接種区域では全頭殺処分をやめた

2026年5月19日施行の家畜伝染病予防法改正で、接種区域では発生農場の全頭殺処分をやめ、まん延防止に必要な豚だけを殺処分する選択的殺処分に転換した。適切な接種で免疫を得た無症状の豚は感染拡大のリスクにならない、という接種農場の発生事例の解析が根拠にある。ASF にはワクチンがないため、この選択肢はない。

清浄国への復帰は2050年が目標

農林水産省 豚熱清浄化ロードマップ(2025年6月)
段階内容移行時期の目途
0期(現在)現行の弱毒生ワクチンを接種—
I期接種豚と感染豚を見分けられるワクチン(マーカーワクチン)に置換2035年頃
II期感染抗体陽性の豚をゼロにする2045年頃
III期要件に適合し、清浄国ステータスを取得2050年頃

接種していない北海道は、他地域に先んじて清浄地域ステータスを目指せるとしている。前回は最終発生(1992年)から清浄国宣言(2007年)まで15年、今回は発生から目標まで32年になる。

日本の豚熱 — 前回(1887〜2015年)と今回(2018年〜)
前回今回
発生1887年頃(米国から輸入した種豚)2018年9月(岐阜県、26年ぶり)
ワクチン1969年 国産生ワクチン実用化 → 1996年から段階的に接種中止2019年10月 予防的接種を再開 → 46都府県
最終発生/ステータス喪失1992年 最終発生2020年9月 清浄国ステータス喪失
清浄国2007年 清浄国宣言、2015年 WOAH 公式認定2050年頃 取得目標

供給と相場への影響

発生ごとの防疫措置と予防的接種で広がりが抑えられ、全国の供給と相場で見ると、と畜頭数にも豚枝肉の卸売価格にも豚熱による大きな変動は表れていない。累計殺処分約44.9万頭は、2018〜2025年の8年間のと畜頭数(約1億3,160万頭)の0.34%にあたり、発生年の2018年はと畜頭数・生産量とも前年より増え、ピークの2019年も前年比−0.7%と年ごとの変動の範囲内に収まった。卸売価格にも、発生を境にした水準の変化は見られない。

※ あくまで供給量や相場の話であり、この動きが小さいことは、発生農場の被害や防疫の負担が小さいことを意味しない。

豚 と畜頭数(全国、月次)— 年比較
豚 と畜頭数(全国、月次)の年比較、2017〜2019年(発生年と前後1年)。発生年の2018年、ピークの2019年とも、前年と同じ幅で推移している。出典: 農林水産省 食肉流通統計(日本タブと同じデータ)。
豚枝肉 卸売価格 上規格(全国食肉中央卸売市場計、月次)— 年比較
豚枝肉 卸売価格 上規格(全国食肉中央卸売市場計、月次)の年比較、2017〜2019年(発生年と前後1年)。出典: 農林水産省 食肉流通統計(日本タブと同じデータ)。

本記事で使ったデータは、以下のダッシュボードで確認できます。

関連用語
参考・出典